Zero-Alpha/永澤 護のブログ

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2004.12
グループワークの介入事例としての授業:
導入(準備)および開始段階としての役割ゲームの機能的かつ軌範的な位置づけ
(Modified Version)

はじめに
 本論では、自分が運営しているグループワークの事例として、筆者が担当する科目の一つである「社会福祉援助技術各論1」の授業運営を取り上げて論じる。本授業は、約3ヶ月間に渡る24回(1回90分)の流れを有するが、東京福祉大学において実施される社会福祉専攻一般通信生対象のスクーリング授業では2日間10回分の集中講義となる。参加者(学生)の年齢層はサンシャイン学園では概ね18歳から20代半ばまでだが、東京福祉大学での圧縮された形での集中講義においては20代から60代までの幅があり、多様な職業を持った人々が参加している。(注1) 以下の論述では、授業運営の事例を、その核となる部分を焦点化する形で、特に「導入(準備)および開始段階」としての役割ゲームの機能的かつ軌範的な位置づけに絞って論述する。
序――授業全体の基本的性格について
本授業は、社会福祉専門職者を目指す学生が、「社会福祉専門職者としての基本的能力を身につけること」を目的としている。また、社会福祉士等の国家資格試験の受験を今後に控えた学生がグループメンバーであることから、授業は基礎的・入門的な性格であることを重視しており、ここでの「基本的能力」は、ソーシャルワーカーとしての、クライエントに対する基本的なコミュニケーションの姿勢や倫理として捉えている。授業では、このコミュニケーションを、他のグループメンバーである学生との間で実際に行うことが課題となる。また、この課題の遂行を通じて、学生が他の学生との間で、(一方的ではない)相互的で対等なコミュニケーションを行う姿勢を身につけることが、目標または目指される結果となる。この課題は、メンバー相互のコミュニケーションの促進という過程的要素を多く含む課題であるといえる。
上述の課題の達成に向けて、ワーカー=教師は、第一回目の授業の冒頭で説明するシラ
バスにおける「学生へのメッセージ」で、「授業においては、お互いに対等に学ぶ仲間であり、尊重と配慮を要する個人であることを念頭において下さい」と記述し、学生に注意を促す。これは、基本的な軌範として、また、「本学の全ての講義において学生と教師との間で交わされる契約」として提示される。
1. 導入(準備)および開始段階としての役割ゲームの実施[グループの発達段階-1]
本事例においては、クラス全体は、あらかじめ複数の(1グループ約6名ずつ全体で5グループから12グループ前後の)「ディスカッショングループ」に分かれている。したがって、授業を通じたグループの介入は、各ディスカッショングループにおけるグループワークであると同時に、クラス全体というグループレベルでのグループワークにもなっている。すなわち、各授業において、学生は、6名程の自分の所属するグループで他のメンバーとコミュニケーションを行うとともに、同じ授業時間内でのグループ発表等の作業を通じて、クラス全体をグループとした他のメンバーとのコミュニケーションをも行うことになる。
先に述べた「学生が他の学生との間で、(一方的ではない)相互的で対等なコミュニケーションを行うという姿勢を身につける」という目標は、授業を通じて行われるグループディスカッションのコミュニケーション形態が、常に「フリーフォーム形態」、すなわち「メンバー全員がコミュニケーションの責任を負って、自由に話し合いをする形態(中略)メンバー中心形態」(注2)を取るようにトレーニングすることによってその達成が目指される。従って、導入(開始期)としての第一回目の授業においては、このフリーフォーム形態の可能な限り早期の定着に向けての介入が焦点となる。というのも、「ほとんどの状態で、ソーシャルワーカーは、指導者中心よりもメンバー中心の相互作用形態を発展させる努力をすべきである。メンバー中心形態は、それぞれのメンバーが自由に互いに相互作用する。メンバーのコミュニケーションのチャンネルは開放されている(中略)メンバー中心形態は、グループの相互作用、グループの志気を増長し、メンバーがグループの目標達成に献身することが認められている」(注3)。また、「開始期においては、メンバーとして入って来る人々が前からの知り合いの場合を除き、メンバーはグループのリーダーに注目を払いがちで、リーダーからメンバーへ話しかける一方通行のコミュニケーションになりやすく、メンバー間の会話は限られやすい。リーダーは、この一方的コミュニケーションの型が慣例化されないように、できるだけ早く、リーダー中心からグループメンバー中心へ、メンバー間のコミュニケーションへと導かねばならない」(注4)からである。そこで、以下の論述では、上述の「メンバー中心の相互作用形態を発展させる努力」、「できるだけ早く、リーダー中心からグループメンバー中心へ、メンバー間のコミュニケーションへと導」くための介入の具体的事例としての役割ゲームを取り上げて論じる。
最初にワーカー=教師が全体の授業の流れを説明し、グループメンバー相互で自己紹介を行わせた後で、以下の役割ゲームを行った。ゲームは、以下の手順で行われる。(1).近くの者と2人1組になる。基本的には隣同士でよい。(2).2人ともごく簡単な相手への質問文を考えて相手に知られないようにノートなどに書く。例えば、「トイレはどこですか?」や「今日のご飯は何ですか?」である。(3).2人のうちで、最初に質問する役(次に質問に答える役)と最初に質問に答える役(次に質問する役)を決める。(4).最初に質問する役の人が質問する。ただし、質問はア行の音(母音)のみの発声で行う。よって、例えば「トイレはどこですか?」は、おおよそ「オイエアオオエウア?」になる。その際、学生には、単に「オイエアオオエウア?」という発声をするではなく、相手に伝えようという気持ちを込めて、またそういった自分自身の相手に対する構えを感じ取りながら質問を試みるよう促す。なお、教室という文脈を欠いた状況の特異性についてはコメントしておく。(5).答える役の人は聞き取りを試み、分かった(と思った)ら、その答を普段の発声で言う。上手く聴き取れて会話が成り立つまで問と答を数回反復し、その後役を交代して再び以上の過程を行う。その際、聴き取ろうという構えを促す。以上が第一段階であり、この段階でゲームでペアを組んだ相手同士での相互的で対等なコミュニケーションがなされるとともに、ゲームの結果をペアの相手以外のメンバーとも話し合うことを通じて、グループ内のメンバー相互間に凝集性(親密さ)が生まれる。
次に、第二段階だが、(6).それぞれの2人組の間で共有された問と答のいくつかのセットを、今度はクラス全体の人に当ててもらうゲームを行う。任意の2人組を選び、その内の1人に母音のみの発声で質問をしてもらい、その問だけを聴いて2人組以外の人に早い者勝ちでその問は何かを当ててもらう。1回目で誰も分からなければもう1度質問してもらい、これを3回まで繰り返す。(授業では1回目で当たる場合もあれば3回言っても分からない場合もあった。) もし3回質問しても誰も分からない場合は、今度は答える役の人に普段の発声で答えてもらいそれをヒントとする。以上の過程をいくつかの2人組みの問と答のセットで行う。この第二段階において、クラス全体の相互的コミュニケーションが、第一段階で形成された各ディスカッショングループ内の凝集性を下地として促進される。
上記役割ゲームが持つ「グループワーク導入(準備)および開始」機能の意義を次に述べる。「リーダーシップ」、「ワーカーの役割」に関しては、ワーカー=教師は、「個々の学生たちの相互的で対等なコミュニケーションを活性化し促進する」という援助目標を達成するためリーダーシップを取ることが求められる。ここで導入される「グループ軌範」は、「他者の呼びかけに応答する」というものであり、本事例における「グループの(達成)課題」でもある。この課題の達成過程としての「軌範の発達」は、授業を通じて反復訓練されるグループディスカッションの実践のなかで実際に見られた。(注5)
なお、本導入時に不可欠なことは、ワーカー=教師が、学生=グループメンバーをコントロールしようという構えから自由になることである。ワーカー=教師は、「相互的で対等なコミュニケーション関係において、他者の呼びかけに応答する」という軌範の発達を援助の全過程を通じて体現していかなければならない。この援助スタイルに関して、以下に具体的に述べる。例えば、学生が漠然と「言語障害のため、他人と上手く会話できないクライエントと関わっていくにはどうすればいいのか?」という問題関心を持っていたとする。このとき学生に対して、最初から「ではこのような人と関わっていくにはどうすればいいのか?」と質問したり、また直ちに「このテーマでディスカッションして下さい」と始めても、学生はなかなか具体的な「関わること」のイメージまで思い浮かばない。しかし、学生は基本的には皆「他人を援助したい、そしてそのために福祉を学びたい」という学ぶ意欲を持っている。したがって、ここで教師は、学生に対して学ぶための具体的な手がかりを与え、学生の意欲を十分に引き出す必要がある。それによって、学生たちは福祉や援助に対する新鮮なイメージを得ることになり、学ぶことの楽しさや喜びを経験するようになる。このように、一人ひとりの学生に対する相互的で対等なコミュニケーションを通じて、学生同士のそうしたコミュニケーションを促し、実現していくことが教師=ワーカーの重要な役割となる。
【注】
(注1) 具体的なメンバー構成の一例として、2004年8月27日から8月28日にかけて東京福祉
大学での社会福祉専攻一般通信生対象スクーリング授業の受講生27名の属性を以下に紹介
する。性別は、全27名中女性が24名、男性が3名である。年齢は、10歳代5名、20歳代10名、
30歳代6名、40歳代3名、50歳代3名である。学生は、社会福祉士等の国家資格試験をこれか
ら受験する立場にある。また、現在社会福祉関係の職業に従事していない主として若年層
の社会福祉専門職志望者の割合が比較的高い。従って、一般通信生のメンバーの性格は、社
会福祉領域に分類される業種に就いて現に労働している者または社会福祉に対する関心が
比較的高いが必ずしも社会福祉専門職者ではない一般市民層と規定できる。
(注2)『人間行動と社会環境』平山尚・武田丈著 ミネルヴァ書房 2000年 p.144.
(注3) 前掲書 pp.144-145.
(注4) 『社会福祉実践の新潮流―エコロジカル・システム・アプローチ』 
平山尚他著 ミネルヴァ書房 1998.p.127.
(注5)グループディスカッションに関する基本的な留意点(リーダーシップの方法論)を、以下に述べる。適宜学生に発問し、学生のその都度のコミュニケーション状態を確認するというフィードバックを行う。学生への応答は、言語的・非言語的身振りや拍手などといった総合的な働きかけを行うことに心がける。また、すべてのグループディスカッションにおいて、まず各自ディスカッションシートに必ず書かせ、それをグループ内で互いに読み合わせながら討論させる。発表は全グループに行わせ、発表者は毎回必ず交代させる。さらに、他のグループの意見を、メモを取り自分たちのグループの発表に活用させる、などである。
【参考文献】
『社会福祉実践の新潮流―エコロジカル・システム・アプローチ』 
平山尚他著 ミネルヴァ書房 1998.
『人間行動と社会環境』平山尚・武田丈著 ミネルヴァ書房 2000年
『新版 できなかった子(生徒)をできる子(学生)にするのが教育』
中島恒雄著 ミネルヴァ書房 2000年
『福祉グループワークの理論と実際』保田井進・硯川眞旬・黒木保博編著
『はじめて学ぶグループワーク』野村武夫著 ミネルヴァ書房 1999年
『グループワークの歴史』ケニス・リード 勁草書房 1999年
『グループワーク論』大塚達雄他編著 ミネルヴァ書房 1997年 特に第9章
平山尚「最近のソーシャルワーク事情―グループ・アプローチを中心としてー」
『ケースワークの原則(新訳版)―援助関係を形成する技法―』
F.P.バイステック著 誠信書房1996年
Catherine P.Pappell, Beulah Rothman.,Relating the Mainstream Model of Social Work with Groups to Group Psychotherapy and the Structured Group Approach,Abels,S. & Abels,P.eds.,Social Work with Groups Proceedings 1979 Symposium,Cleaveland:Advancement of Social Work with Groups,1980.
パペル・ロスマン「メインストリームを目指すソーシャル・グループワーク――その理論と実践技術」(解説・抄訳 小島蓉子)「リハビリテーション研究」(財)日本障害者リハビリテーション協会   

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